認知症の人の情動理解基盤技術とコミュニケーション支援への応用(UEPD)

~人工知能学会近未来チャレンジテーマ~

Development of fundamental technology for understanding emotions of people with dementia and its applications to communication support

 

背景と目的

本チャレンジでは認知症の人の行動・心理症状(BPSD Behavioral and Psychological Symptoms of dementia)を理解するための基盤技術の開発と,認知症の人と関わる多様な人のコミュニケーションを支援するための研究テーマについて取り組む.BPSDは知的機能の低下に伴い,知識と周囲の人や環境とのインタラクションによって生じる不安・抑うつ状態・幻覚・妄想・興奮・徘徊・不潔行為などの症状である.これらの症状は問題行動としてとらえられてしまうことも多いが,良いケアによって改善することも分かっている.認知症の人の情動理解基盤技術の開発がBPSDの発生の予防と万一発生した場合の解決に役に立つ.人工知能技術を基軸にして,認知症の人の情動理解基盤技術を開発し,多くの認知症の人と現場関係者へのコミュニケーション支援を行うことが,実は「普通の人」にとっても暮らしやすい社会,安心できる社会の実現につながると考えられる.

想定する技術的課題

  • BPSD のケア高度化のためのマルチモーダル感情行動コーパスの構築.
  • 映像,音声,位置情報,血圧,体感情報などマルチモーダルセンサ情報の有効性を検証.
  • 意図感情と行動の知識表現モデルを利用した BPSD ビューアの開発と評価改良.
  • 専門家と高齢者等の主観的コメントを結集しながらコーパスを深化させる枠組みの開発.
  • 利用者を増やしながら BPSD 関連のエビデンスを拡充し,感情行動コーパスの有効性を検証.
  • 認知症の人のパーソナル情報を利用した多職種の協同を生み出す連携支援技術の開発.
  • 人工知能学に基づく認知症の人の意図・感情理解.
  • マルチモーダルセンサ情報を活用しコミュニケーションスキルを形式知化.

5 年以内に実現されること

「社会への貢献」

まだ認知症に関心のない人を啓発し,できるだけ早く気づく環境の構築が研究の一つのテーマである.Web の技術を活用することで,認知症予備軍への理解度を深め日本をモデルにグローバルにコンテンツを配信する.本研究の学術的特色・独創的な点及び予想される成果と意義を以下にまとめる.

  • 感情行動コーパスは科学的・客観的な認知症の研究基盤として今後重要な役割を演じる.
  • 本コーパスは,センサ情報から意図・感情など高次情報までを扱える独創的な研究基盤である
  • BPSD とは何か明らかではない.研究協力者と BPSD の意図感情と行動の知識表現モデルを考えると,コーパスを基軸に脳科学や精神医学の発展が可能と考えられる.
  • コーパスのタグ付きセンサ情報を公開することで,認知症の人の情動理解の研究を加速する.

学問的な知識の深まりは社会の理解へ応えることと必ずしも一致しないが,少なくとも両者の共有できる知識を専門家が把握し,社会のニーズに適切に応えられる体系が必要である.本研究会のこのような知識の社会還元は,研究者の社会への説明責任などが問われるなか,アウトリーチ活動の一環としての役割も果たしていくものと期待する.

「人工知能の研究への貢献」

本チャレンジでは,本年度発足する人工知能学会第 2 種研究会「コモンセンス知識と情動研究会(SIG-CKE)」と連動させて活動する予定である.認知症は様々な分野と関連しており,WEB を活用して異分野間の共通言語を作り,形式知化していくアプローチにより,分野間だけで語られている用語や概念を多面的に表現し,蓄積する.

発達研究は,社会性や情動という観点での研究が盛んになってきている.発達障害児理解のために,心の働きや脳機能,環境デザイン,教育デザインについて小児科医という立場から知識を提供し,健常児と発達障害児との比較から知の解明にアプローチしている.学校などの現場や家庭で起こっていることはまだ明らかになっていないことが多い.工学,現場,医療の連携を進めて知の蓄積を行う必要がある.
高齢者の加齢に伴う認知機能や感情の変化といったテーマも,発達と同様に時系列して捉えると,子どもの発達研究と関連付けて研究が行えることが分かってきた.子育ち支援と同様に,加齢支援を行うことで相乗効果が生まれ,思いやりのある社会の実現に貢献できると考えられる.

本チャレンジでは,認知症の人と家族の支援を念頭に,「現場主義」と「コモンセンス」の観点から情動の本格研究に取り組む予定である.介護等の実務家とともに認知症の人の意図感情の理解技術を深化させ,生きがい,賞賛,誇り,プライド,自己喪失感など,実世界指向の広義の情動(感情)研究を開拓する.

オーガナイザー

  • 竹林洋一(静岡大学)
  • 上野秀樹(敦賀温泉病院/千葉大学/海上寮療養所)

今後の予定

  • 2017年度人工知能学会全国大会(第31回)
    日程:2017年5月23日(火)〜5月26日(金)
    場所:愛知県名古屋市(ウインクあいち)

UEPD (Understanding Emotions of People with Dementia)